眠れなかった。
手術をその日に控えた夜は、眠れなかった。
何度も目が覚めて、静かな病室でレースのカーテンの先の闇を見る。
「こ、怖い。夜中の病院怖い」
ここは大部屋。4人部屋だが3人しか居ない。ちょっとした妙な音にもビクッとする。もっとイビキとかかいてくれていいのよ、皆様。シーンとしているとマジで怖いから。
ウトウトしては目が覚めるを何度も繰り返して早朝5時ちょっと。起床しました。
手術当日は、水分摂取が朝の6時までと決まっていました。何そのハードさ。ちょっとでも寝過ごしたら水一滴も飲めないやんけ。
というわけで、スマホは機内モードにして目覚ましをかけてありましたが、その前に起きました。
水と麦茶をごくごくと飲む。朝ご飯は無し。手術は9時から。
刻々と近付く手術に、ちょっとドキドキしながら時を待つ。
8時になると、点滴がスタートしました。
手術を間近にして、不正出血が酷くなっていたので、T字帯ではなくおむつをする事になっていました。8時45分過ぎ。まだ着替えを手伝ってくれるはずの看護師さんが来ない。
8時55分。ようやく看護師さんが来て、おむつ装着の着替えをして手術室に歩き出す。
病院3階の手術室に着くと、誰も迎えに来ない。待っていた。おかしいぞ。そこに男性看護師が気付く。私のリストバンドの名前を見てこう言った。
「あ、無雲さんは2階の手術室じゃないっすか?」
もう時間は9時を過ぎている。この看護師、何たる凡ミスをしてくれたんだ!!
けっこうイライラした無雲であります。私は時間を厳守の人間。こういう凡ミスが重大インシデントに繋がるんだぞ!!!
で、気を取り直して2階の手術室に行くと、すぐに大勢のスタッフに取り囲まれた。
わやわやと色々確認されて、手術台に乗せられて、着ているものを剝がされていく。おむつも剥がされていく。
「(全部脱ぐならおむつ後ですれば良くなかった!?)」
無雲の素朴な疑問であります。
そうして、あっという間に全身麻酔に掛けられていく。
凄く眠くなってくる。
てか、呼吸が……息が止まりそうだ。苦しい。苦しい……くる……
「無雲さん、分かりますか!!」
***
少し意識が戻ると、『暑い・痛い・息がしづらい・喉が渇いた・おしっこしたい』のいわゆる『不快極まりない』状態でありました。
「い……痛い……」
まず出てきたのはこの言葉。
「痛み止め追加しますね!!!」
すぐに痛み止めが追加される。
「あ、暑い……」
「暑いですか!? 電気毛布要りませんか!?」
「(電気毛布なんかされたら死んでまうわ!!)」
言葉が出てこないけど脳内では冷静にツッコミを入れる。
「トイレに行きたい……喉が渇いた……」
「おむつにしてください!」
「(出来るかぁ!!)」
人間、意識がしっかりしているとなかなかおむつには放尿出来ないものである。無雲は出来ないタイプの人間である。
喉が渇いたから、ガバっと上半身を起こした。そうしたら────
『ビビビビビビビビビビ!!!!!!!!』
激しいアラーム音がなる。
「あ、すいません……」
謝って横になる。
「喉が渇いたんですが……」
「分かりました! お水飲みましょう!」
アラームが鳴らない様にしてもらって、水を飲む。
「もっと飲みますか!?」
「トイレに行ってからでないと飲めない。おむつには出来ません」
「分かりました! あと20分で術後4時間なんで歩けますが、もう歩いちゃいましょう!!」
というわけで、繰り上げでさっそく歩くことになりました。トイレまで。
点滴や色々な器具をぶら下げたまま、着替えをして、そのままトイレへ。
ふはーっ。すっきり。
と、トイレを振り返ると、そこには『青いおしっこ』が。
「(なんじゃこりゃぁぁぁ!!??)」
ベッドに戻って、即看護師さんに尋ねました。
「あの、おしっこが青いんですが……」
「手術で使った薬剤の影響ですね。段々薄くなっていきますよ」
結局おしっこは4回するまで青かった。
この間に、「スマホ必要ですよね!」と看護師さんからスマホを手渡されていた私は、うつろな意識で家族・友達・Twitterに状況を知らせていました。人間って強い。
そして、母にLINEで尋ねました。
「リンパは、どうなった?」
すぐに返事が来ました。
「転移してなかったってよ」
「良かった」
ちょっと安堵した。でもセンチネルリンパ生検をしたから脇はめっちゃ痛かった。
ちょっと落ち着いてくると、朝もお昼もご飯を食べていなかったので、徐々にお腹が空いてきた気がしました。が、ここで悲報が。
「今日は夕ご飯も出ませんのでね! お茶か水だけにして下さい!」
「ポ、ポ〇リスウェットは?」
「ダメですね!」
丸1日絶食とは。
とりあえず、この日は血中酸素飽和度を図る度に値が91とかで低かったです。その度に深呼吸を5回くらいして、復活させていました。
とにかく息苦しかった。麻酔が残っていたのでしょうか。酸素不足だったぜ。
麻酔の効果か、ずーっとうつらうつらしていて、テレビを観る気力も無かったです。呼吸は苦しいままだし、もう本当にしんどかった。
そうして、早めに眠りに就こうとした私なのでした……。
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